黄瀬にいきなり告白された。マジで急だった。休みの日に黄瀬から誘われてストバスコートに行って、ずっと普通にバスケしてただけで、それまでそんな様子は全然なかった。ただ帰り際に黄瀬が変にそわそわしてるから、「なんだよ言いたいことあるなら言えよ」って言ったけど、まさかそんなこと言われるなんて思わなかった。 驚いて固まってしまったオレに黄瀬は 「返事は今じゃなくていいっスから…。考えといて」 と言い残して、帰って行った。オレはそれに小声で「おう」と返すのがやっとだった。 |
W h a t W e n t W r o n g |
急だったけど、思い出してみれば、今日のストバスだけじゃなくて、最近は買い物だの飯だのなにかと誘われてたような気がする。気づかなかったってだけで、黄瀬はずっとオレをそう言う目で見てたってことなのか。そういえば、黒子も来るって聞いてたのに、待ち合わせ場所に行ったら二人だけだったこともあった。「黒子っちには断られちゃったんスよー」とか言ってたけど、あれも嘘だったりすんのか。うわ。ちょっと怖ぇよ。 黄瀬がゲイだなんてことも、そもそも気づかなかった。アメリカにいた頃、ナヨナヨしてるからゲイだろっていじめられてるやつがクラスにいた。結局そいつがホントにゲイだったのかはわかんねえ。ただなんとなくオレの中でゲイっていうのはそういうイメージがあった。でも黄瀬はそいつみたいなタイプじゃねえし。ただ、黄瀬がそうじゃなくても、オレが黄瀬と付き合ったらああなっちまうのかもしれない。それはイヤだな。てか日本ってアメリカよりゲイに対して厳しいんじゃなかったっか?そのわりに黄瀬は、照れてはいたけど後ろめたい感じは全然なくて普通にあっさり好きだと言ってきた。オレの方が驚いてる。おかしくないか。あーでもあいつモデルやってるから、男と付き合うのもそんなに特別じゃない世界なのかもしれねーな…。ミュージシャンとかゲイ多いし。 日本に戻ってきたわけだし、なんとなく誰かと付き合うんなら、相手は髪が真っ黒で長くて、ちょっとシャイな感じの、おとなしい女子かな、だなんて思ってた。具体的に誰に似てるとかはねえけど。でも黄瀬って、髪は黄色いし短いし、うるさいし、チャラいし、そもそも女ですらない。見事なくらい、何一つ合ってないじゃねえか。 でも人って条件で選んでいいものなのか?お前は髪が黒くないからいやだ、とか、そういうことだけじゃねえよな。いや、それにしたってひとつも当てはまらねえのもどうかと思うけど。 家に帰って風呂入って飯食っても、そんなことばかりグルグル考えちまう。もう早く寝ちまおうと思ってベッドに入っても、目がさえちまって眠れない。試合前の高揚とは全然違う。ただ頭の中がごちゃごちゃしててわけわかんねえ感じ。 黄瀬はオレの返事を欲しがってる。「考えといて」と言っていた。だから考えなきゃいけない。黄瀬のことを。オレのことを。黄瀬のことは嫌いじゃない。けどオレにゲイ野郎になれって言うんならそれは違うだろ。 目を閉じると何度でも黄瀬が出てくる。オレのことを好きだと言う。好きって何なんだよお前。何がしたいんだ。お前にはあんだけ列になって並んでる女子がいるんだから、そんなかから選べばいいのに。なんでオレなんだよ。 結局何時に寝たのか覚えてないけど、次の日の朝は起きても、全然寝てないみたいに頭がぼんやりしてた。しかも今日は学校がある。これで朝練はマジキツい。寝てないのも絶対カントクにはバレんだろーな…。あーもー黄瀬!お前のせいだよ!! ■ どうにか朝練は気合いで乗り切ったけど、やっぱり授業中はいつも以上に寝てしまった。2回も先生に気づかれて怒られたけど、それでも眠い。ただ現国の授業で、ふと目を覚ましたら先生が「ここでいったん整理するために、作者の主張の流れを考えてみましょう」とか言ってて、黒板にさらさらと図を描きだした。それまでの話を全然聞いてなかったけど、環境破壊についての文章みたいなのを先生はすげえわかりやすい感じに説明してたから、オレはこれだと思って、頭の中をぐるぐるまわってる考えをどうにか図をしようとノートに書いてみた。でも、 スキ →→→→ きせ オレ ←←←← そうでもない みたいな図しかできなくて、余計にわけわからなくなった。でもこれ以外にねーよな。ってことは、考えててもわかんねーけど、これって本当はシンプルな問題なのかもしれねーな…。 ぼんやりした頭を押さえながら、昼休みは天気がいいから屋上でメシ食おうとしたら、いつの間にか座ろうとした場所のすぐ隣に黒子が立っていた。それだけでもビビるのに、黒子はさらに「黄瀬君が、ついに言ったそうですね」といつもの無表情で告げてきた。 「…お前知ってたのかよ」 「知ってたもなにも、協力頼まれましたよ」 「マジかよ…」 黒子はそのままそこに座って弁当を食い始めたので、ちょうどよかった。この問題は一人で抱えるのはキツイ。一人じゃ考えても考えてもわかんねーし、誰かに相談したくなってきたところだ。でもオレから簡単に言いふらせることじゃねえし。黒子もそれを察してくれたのかもしれない。さすが頼れる相棒だぜ。黒子なら現国も得意だしな。とりあえず、黒子に「どうしたらいいと思う」と聞いてみた。 「僕に聞かれましても」 「黄瀬から考えとけって言われたけど、わかんねえんだよ」 「考え事は火神君の苦手分野ですからね…そうですね、じゃあメリットとデメリットで考えたらいいんじゃないですか」 「どういうことだよ」 「単純に、黄瀬君と付き合った場合に火神君が得するか損するかってことです」 「お、なんかわかりやすそうだな」 「ではまずメリットから挙げましょう。黄瀬君と付き合ったら何かいいことありますかね」 「えーと…」 いいこと。なんだそれ。黒子のアイデアは最初わかりやすそうって思ったけど、いいことなんてマジで思いつかない。だってオレと黄瀬。付き合ってるイメージすら全然わかない。ふたりで何すんだ。買い物?マジバ?バスケ? 「…あ、バスケ。バスケが好きなだけできる」 「バスケは別に付き合ってなくてもできますけどね…他には?」 「他は…あんま思いつかねえな」 「人気モデルと付き合ってるっていう優越感に浸れますよ」 「それは別にいらねーけど」 「高校生にしてはお金ありそうだしいろいろ買ってくれるんじゃないですか」 「それも別にな…」 「そういえば火神君ボンボンですもんね」 「関係ねーだろ」 「じゃあ次はデメリットで。何かありますか」 「あー…なんだろ」 あ、デメリットって言われたらやっぱりあれだな…昨日も思ったけど、 「…お、オレがゲイになっちまうこと?」 「まあ、男同士で付き合ったらレッテルはそうなりますよね。僕は、火神君はどうなっても火神君だと思いますけど」 「そ、そうなのか?」 「あまり変わるとは思えませんが。他にありますか?」 「あー…あんまり思いつかねえかも。黒子、なんかあるか?」 「そうですね、僕が思いつくのは…まず、黄瀬君はほんとうに鬱陶しいですね。うざいです。つきまとわれると、果てしなくうるさいです」「女の子に年中キャーキャー言われて囲まれてるので一緒にいると落ち着けません」「関係を秘密にしなきゃいけないので面倒くさいでしょうね」「それなりに遠距離だし忙しいからなかなか会えないでしょうし、そのくせ束縛してくると思います」 ちょっと引くくらいの勢いで次々と黒子は挙げていく。こいつ黄瀬になんか恨みでもあんのか? 「あと…体の関係も求められるでしょうね」 「それってデメリットなのか?」 「え、デメリットじゃないんですか?」 「それは付き合ったら普通じゃねえの?」 「………まあ、火神君がそう思うなら、そうかもしれませんが」 「てか、それ入れなくても、今オマエが挙げただけで、デメリットの方がかなり多かったよな」 「そうですね」 「ってことは、付き合ったらオレが損?すんだよな」 「まあ、そうとも限りませんが」 「え、お前がさっきそう言ったんだろ?」 「それぞれの項目にどういった比重を置くかで変わりますからね。さっき僕が挙げたデメリットが火神君にとってすべて些細な事なら、それを差し置いても損はしないんじゃないですか」 「…あーもうよけいわかんねーよ…」 「いっそのこと、試しにつきあってみたらどうです?ひょっとしたら1か月くらいで向こうから飽きてやっぱナシって言いだすかもしれませんよ」 「アイツそんなんなのかよ」 「彼女だったかは知りませんが、中学のとき、仲良さそうな女子はいつも何人か見かけましたからね」 そうか。そうだよな。あんなにモテるんだしな。オレがこんなに考えたところで、1か月もしたら「やっぱ火神っち、イメージと違ったッス、ごめん」とかヘラヘラ謝ってくんのかもしんねえ。これまで黄瀬と付き合うとか全然ピンとこなかったけど、一方的に別れを告げてくる黄瀬ってのは初めて具体的なイメージがわいて、腹が立ってきた。 「やっぱオレ断る」 「え?」 「そんなすぐやめるんだったら付き合っても意味ねえだろ」 「あ、でもわかりませんよ、意外と」 「でも結局ダメになんなら無駄足じゃねえか。こーいう返事って電話でいいのか」 「いいと思いますけど…って、ホントに断るんですか」 「なんだよ黒子」 黒子は好きにしろと言ったり、ひたすら黄瀬のダメな点を挙げたり、付き合ってみろと言ったりよくわからない。 「いえ、火神君がいいなら別にいいですけど」 「一緒に考えてくれてサンキュ。じゃな」 ちょうど食べ終わったので、先に屋上を離れることにした。なんつーか、黄瀬がすぐ別れたり飽きたりするそんな奴だって思うと、そわそわしちまって、その場にじっとしていられなかったからだ。 ■ それから部活やって、家帰って、風呂入って、飯食って。なかなか電話をかける決心ができなかったけど、もうベッドに横になっていつでも寝られる体制になってからやっと、黄瀬に電話することにした。 電話したら出るかな、黄瀬。出たら「お前とは付き合えない」って言わなきゃならない。黄瀬はどう思うんだろ。やっぱオレのことが今は好きだから悲しむんだろうか。そう考えると返事をしたくない気もする。でも先延ばしにしたらオレが考えすぎてダメになっちまう。ごめん、黄瀬。ぎゅっと目を閉じて、やっと、コールボタンを押した。 「火神っち?」 番号が登録されてるせいか、出るなりいきなり名前を呼ばれてビビった。そういえばオレから電話ってしたことねーかも。 「あ、ああ。黄瀬、遅くにわりいな」 「いや、火神っちから連絡くれるとかすげー嬉しいッス、なんスか?」 「えと、昨日の」 「あ、考えてくれたんすか、オレとのこと」 黄瀬の声がなんだか嬉しそうで、言いにくい。胸が苦しくなる。でもこいつがすぐにオレのこと飽きてもういいやって思うくらいなら、ここでちゃんと言わないとダメだろ。 「あれさ、わりいけど、やっぱ、無理だ」 「え、なんで」 黄瀬の声が急に低くなる。 「なんでっつっても…」 「だって彼女いないっつったじゃん。好きな子もいないって。」 「そりゃ言ったけど」 そーいうことを前に聞かれたような気もする。でも好きなやついないイコール黄瀬と付き合うってわけじゃないだろ。 「オレのことだって一緒にいて楽しいって言ってたじゃん」 「それも言ったけど…」 これも前に聞かれた。でもそれって友達の話だろ。なんかちげーんだよ。もうこれ以上なんて言ったらいいのかわからなくて、「わりぃ」ともう一回言ったら、黄瀬は「…そっか。変なこと言ってごめん。忘れて」って言って、そこであっさりと通話は切れた。 仕方ないことだけど、ものすごい罪悪感が残る。最後、ちょっと声が震えてた。泣いたりしてねーよな。でもこれで黄瀬がオレのことを捨てたりはしないんだ。これで正しいはずなんだ。にぎりしめていた携帯を枕元に置くと、昨日寝不足だったせいか、緊張がとけたせいか、すぐにそのまま寝てしまった。 ■ 次の日の昼、また屋上に行ったら、すぐに黒子が現れた。約束したわけじゃねーけど、なんとなくオレが来たら黒子も来るんじゃないかと期待してた部分はある。黄瀬のことを話したかった。でもオレから言うより先に、黒子が「黄瀬君の件、断ったんですね」と言ってきた。何で知ってんだよ。 「…黄瀬から聞いたのか?」 「はい。きのう黄瀬君から着信が大量にありました。最初は無視してたんですが、あまりに何度もあったので電源を切ろうとしたら間違えて通話ボタンを押してしまって」 そこは普通に出てやれよ、と思うのだけど、もともと黒子は巻き添え食らってるだけだしな。 「黄瀬君、相当泣いてましたよ」 マジかよ。今にも泣くんじゃねーかって声してたけど、マジで泣いてたのか。良心がズキズキ痛む。でもオレが考えて出した結論だからな。黒子には迷惑かけて悪いけど、黄瀬が黒子に泣きつけてよかったと思う。一人で泣いてたら、なんつーか、かわいそうだ。 「でも、黄瀬には悪いけど、オレが考えて決めたことだしな…」 自分自身を納得させるようにそう言ってたら、黒子が不思議そうに「え、でも、黄瀬君、諦めないって言ってましたよ?」と返してきた。 「はあ???なんでだよ!!!」 「火神君だって試合のときは最後まで諦めないじゃないですか」 「試合とはちげえだろ!」 「まあ、制限時間がないですからね…」 「それもだけど、もっと根本的に違くねえ!?ていうか、あいつが考えろって言うから考えて返事したのに、返事しても結局なんも変わんねーのかよ!」 「最初から返事をもらえば諦めると言ってたわけじゃないですからね」 「くそっ、あーもー何なんだよあいつ…!!せっかく考えたのに…」 諦めないって何してくんだよ。黄瀬がますますわかんねえ。キョウコウトッパに出たらどうしたらいいんだよ。オレになにする気だよ。オレが頭を抱えて突っ伏してたら、黒子がちょんちょんと背中をつついてきた。 「火神君」 「なんだよ」 「さっきから君は考えて決めたとか言ってますけど、普通のひとは、何度も考えなおすんですよ」 黒子が呆れたように言ってくる。でもダメだろ。考え直したって、それでもし試しに付き合ったって、一度関係が始まったらいつかは絶対に終わるじゃねーかよ。そんなんだめだろ。試しに付き合って、オレがすげえ好きになっちまったらどうすんだよ。絶対オレから手が離せない気がする。それからすぐに黄瀬はシーズンの過ぎた服みたいにオレを捨てるんじゃねーのか。そしたらオレだけがゲイになって取り残されるんだ。そんなんダメだろ。絶対に。 ■ 黄瀬は諦めないというのなら次どんな行動に出るんだろうと思っていたら、その行動は思ったより早かった。その日の部活が終わったあとに携帯を見たら、急で悪いけど今からいつものストバスコートまで来れないかというメールが黄瀬から来ていた。ちょうどいい、オレだって話したいと思ってたんだ。考えてたってラチがあかねえよ。 夕焼けでオレンジ色に染まったストバスコートに着くと、もう黄瀬が先に来ていた。オレを見つけると黄瀬は急いで駆け寄ってくる。 「火神っち、急に呼び出してごめん、オレ…」 「黒子から聞いた、諦めねえんだってな」 言い淀んだ黄瀬に先回りしてそう告げると、黄瀬は驚いたような、ちょっと傷ついたような表情でこっちを見た。 「あ、聞いたんスか。そ、そうなんスよ。そのこと言いたいって思って呼び出したんスけど…。やっぱまだ火神っちといる時間短いかなって思って。オレも、言うの、急すぎたっスよね。まだちょっと遊んだだけなのに、あんなん言われたらびっくりするっスよね。でも、オレともっと一緒にいたらもっとオレのいいとことか、わかってもらえると思うんスよ!だから、返事くれって言ったのはオレなんスけど、今はまだ決めないで、もっとオレと、たとえば」 黄瀬はそれからなんだかんだと力説してくる。お前のいいとこくらい、そんなん知ってるよ、別に今からプレゼンテーションされなくたって。 「ちょっ、火神っち、ちゃんと聞いてるっスか?!」 「…お前さ、今たまたまオレがブームなだけで、ぜったいオレのことすぐ飽きるだろ」 「えっ、火神っち、急に何言ってんスか」 それまで調子よくしゃべりまくっていた黄瀬が急にビビって、目の色がちょっと変わった。やっぱ、心当たりがあんじゃねーのかな。 「なんか、黒子が、付き合ったら1か月くらいで飽きて黄瀬から別れたいって言い出すんじゃないかって言ってた」 「く、黒子っち…ぜんぜん協力してくれないと思ったら、そんなことまで…」 「お前のことはいいやつだと思うけど、付き合うってやっぱそれだけじゃねえだろ。すぐ別れたりする奴だったら意味ねえって思うし」 「……で、火神っちは、それが心配だったんスか?」 「え?心配っつーか…」 「もー、怖がりっスね!!!」 「なんなんだよ」 「それが理由って、オレ、逆に脈アリなんじゃないかって思っちゃうんスけど」 「は!?」 それまでわりと必死な感じでしゃべってた黄瀬が、なぜか急に自信を取り戻してる。ていうかこいつの話が全然わからねえ。俺がダメって言ってんのになんでそれが脈アリなんだよ。 「そりゃ、一生ずーっと飽きないかどうかは約束できないっスけどね」 「だから、それがいやだっつってんだろ!!」 だんだん黄瀬のペースに飲まれるような気がしたから、怒ったようにそう叫ぶと、黄瀬はひるむどころかにっこり笑って、さらに一歩近づいてきた。 「でも、火神っち。オレ今までずっと他のスポーツ続かなかったけど、バスケは続いてるんスよ。好きだし、楽しいし、もっともっとうまくなりたいし、これからもずっとやりたいって思うし」 「お、おう」 なんだこの話。いままでの話と関係あんのか? 「だから、火神っちとも、付き合ったら絶対続くと思うんス!」 「な、なんか違くねーか?それ」 「違くないッスよ。だって、火神っちだって、イヤな話だけど、もしかしたらいつか怪我とかでバスケ辞めなきゃいけないかもしんないじゃないスか。でもだからって今からやらないって思わないっスよね」 「そりゃそうだけど」 「それと同じっスよ。きっと続けられるし、終わりのことだって今から怖がることなんかないんスよ。だからオレと火神っちは絶対大丈夫っスよ」 うまく反論できねえけどなんかちげー気がする。全然同じじゃねーだろ。それとも一般的には同じなのか?あー、わかんねえ!! 「あと他に、オレがダメな理由、あるんスか?」 「えーと、他に…」 「あったら教えてほしいっス!」とか言いながら黄瀬が顔を覗き込んでくる。きのう黒子が他にもデメリットをたくさんあげてた気がするけど、ダメだ、いま全然思い出せない。黄瀬の髪と目が夕焼けの光をあびてキラキラしてる。それを見てるとオレの頭の中がどんどん真っ白になる。デメリット、忘れねーようにどっかに書いときゃよかった。ていうか黄瀬がさっきからすげえ近いんだけど。いつの間にか腕つかまれてるし。すげえ熱い。何だこいつ。わけわかんねえよ。ほんとに。やばい、まじで近い。やばい。黒子、こいつどうすりゃいいんだよ。 「ちょ、離れろって」 「なんで?近いのダメっすか?」 「ダメっつーか…」 「火神っち、照れてる!」 「照れてねーよ!!!」 うぜえ、こいつほんとうぜえ!そうだ、黒子があげてたデメリットに、確か「うざい」があった。これのことか、すげえ納得した。 でも、オレはなぜだかそれが、「他に理由ないんじゃないスかー」と笑う黄瀬の手を振り払う理由になるくらいのデメリットだと、言い出すことができなかった。 Dec.31.2012 |