「ああ、アルフレッド、きっと来てくれるって信じてたわ」 「きみのピンチなら、地球の裏側にいたってわかるさ」 「あなたってミステリアスね」 女は魅力的に笑う。肩で渦巻く金髪。肉感的な唇。青年は女の肩に手をまわし、抱き寄せる。ふたりが互いを見つめあう。マンハッタンの摩天楼のガラスがいっせいに夕日を映し出し、橙色にきらめく。空には宵の明星が輝く。それらを映した女の目にも光が宿る。 青年が彼女に口づけようとした瞬間、ビルの影から眉毛の太い男があらわれる。神から与えられた特別な能力で青年がどうにか宙に浮いているにも関わらず、眉毛の男は何でもないかのように横に並んで浮かんでいる。そして眉毛の男が青年の耳元に囁く。 「おまえ、ほんとに女の趣味悪いな。一晩遊ぶにはいいかもしれねぇけど、まともに付き合いたいならぜったいやめとけ」 眉毛の男の発言を青年は無視しようと努める。男の存在を今この世界の中で認めるわけにはいかないからだ。しかしなおも男は青年に話しかけ続ける。 「お前が選ぶのっていつも同じようなタイプだよな。ちょっとは勉強しろよ。おい、アメリカ、きいてんのか?」 青年は男を無視して女に向き合うが、眉毛の男が発した言葉の呪いによって、すでに女は人形に姿を変え、その形も崩れはじめている。青年はすでに女の顔も認識できない。あの印象的な唇すらも思い出せない。青年は記憶をたぐり寄せるように、女をきつく抱きしめようとする。しかし時すでに遅く、女は泥のように腕の中からこぼれ落ちてしまう。 「ほら、俺の言った通りだろ?ろくな女じゃなかったじゃねぇか」 男はその特徴的な眉毛を片方上げて、さも愉快そうに笑う。青年は女が腕の中からこぼれて消えたことに呆然としていたが、その笑い声を聞いて、無視すると決めていたはずの眉毛の男を睨みつけ、叫んだ。 「ああもう!うるさいなあ、イギリス!」 n e x t |