たっなく悪でぎす見の夢にりまあは目のこ
「あの、誰にも言わないでほしいのですが」 「うん、いいよ」 「それに、確固たる証拠があるわけではないので」 「うん、それで?」 「そもそも私の勘違いかもしれませんし」 「うん、わかった」 「第一、フランスさんに相談していいのかもわからないんですが」 「うん、でも嬉しいよ」 「ほかにこのようなことを話せる方が誰もいらっしゃらなくて」 「うん、俺に任せてよ」 日本が次々と繰り出してくる前置きをあっさりと流し、フランスは先を促す。それでも日本はしばらく黙ってコーヒーカップの中を覗き込んでいたが、ようやくこころを決めたのか、すぅ、と息を吸い込んで、言った。 「あ、あの…イギリスさんは……私のことが好きなんでしょうか」 日本がすべて言い終わる前にフランスが堪えきれず、吹き出した。コーヒーを吹かずにすんだことがせめてもの救いだ。 「やっ、やっぱり、気づいてらっしゃったんですね!笑わないでください!」 「いやー、あれはね、気になっちゃうよね。前からよく日本のこと見てるなーとは思ってたけど、こないだ、10分くらい見つめられてたでしょ」 「フランスさん、そこまで気づいてらっしゃったんですね…」 「おもしろかったから」 フランスはまだ笑いが止まらない。 「前から視線は感じていたんですけど…あの日は本当にいたたまれなくなって。会議後にイギリスさんに声をかけられたんですが、逃げるように帰ってしまいました。正面の席にいるからいけないのかと思って、昨日の会議ではドイツさんにお願いして席を変えていただいたんですが、あまり意味がなくて」 「昨日あいつ、進行役のドイツのほうとか全然見てなかったもんな。いいのかな、あれ。さすがにあの態度は、俺だけじゃなくて、他にも気にしてたやついると思うよ」 昨日のイギリスは、会議机に頬杖をついて、話し続けるドイツとは正反対の方向を向いてぼうっとしていた。普段ならドイツがその場で注意をしそうなものだが、あまりの妙な雰囲気にためらってしまったのだろう。そして、そのイギリスが見つめる方向にいたのが、妙な視線のせいで顔もあげられず、縮みあがってしまった日本だった。 「そうなんです。おかげで休憩時間中に、ドイツさんからイギリスさんと何かあったのかと聞かれてしまって」 「へえ」 「それで、昨日は、帰りに誘われて、イギリスさん行きつけのブリティッシュパブに連れていってくださったのですが」 「ふたりきり?」 「はい。こう言ってはなんですが、何かされるのかもしれないと思って…緊張しました」 日本の示すところの「何か」がどのあたりをさしているのか、イギリスに何をされるところを想像してしまったのか非常に興味があったが、不信感を抱かれて話を中断されてもつまらないのでフランスはそこは深く問わないことにした。 「何かされちゃった?」 「いえ、特には、されてはないんですが……恋人がいるかとか、私の好きなタイプを聞いてきたりして……」 「へー。あいつにしては直球で来たな」 ツンデレで有名な彼なら、たとえ意中の相手とふたりきりになれたとしても、せいぜいお決まりのテンプレ台詞で『おまえのためじゃない、俺がビールを飲みたかっただけだ』などと叫んでお開きになるのが関の山かと思っていたが、意外と頑張っているようだ。 「あと私があまりにアメリカさんの言いなりだから、もしアメリカさんに付き合えと言われたら付き合うのか、とか」 「そりゃ病んでるね」 日本にはかわいそうだけど、あいつの頭の中で今そういう無理矢理系シチュエーションの妄想が流行ってるのかもな、とフランスはぼんやり考えた。なんていったってエロ大使だもんな。 「病んでますよね。心配になりました。しかもあまりに真剣な面持ちで聞いてくるので、そんな事態はありえないと強く否定しておきましたけど。帰り際には、手を握られて『俺に言いたいことないのか』と潤んだ目で見つめられてしまいまして…。私、どうしたらいいんでしょうね」 どうしたらいいのか、難しい問題だ。しかし、次の会議でもイギリスがあの態度のままだったらさすがにドイツは怒るだろうし、日本もやりきれないだろう。見るのはおもしろいけど。どうしたらいいのかと言えば、二人で解決してもらうしかないような気がする。 「えー…とりあえず、こっから近いんだし、イギリスん家行ってみたら?」 「昨日の今日で、恥ずかしいですよ」 「その恥ずかしさがいいんじゃないの?」 「でも、お約束もしてませんし」 「あいつも今日休みだろうし、今の時間なら絶対ひとりで庭いじってるか茶飲んでるかだから大丈夫」 「そうなんですか。…さすが、よくご存知ですね」 まあ、イギリスとしては家で幻覚とたわむれてるところをあんまり日本には見られたくないだろうけど、仕方ないよな、ありのままの姿を見てもらうのも大事だもんな、とフランスは無責任に考えた。 「でも会ったところで何をお話ししたらいいのやら」 「俺にしたのと同じでいいじゃん。イギリスさんは私のことが好きなんでしょうか、て聞けばいいよ」 「それ、無理ですよ」 n e x t |